このブログを検索

2015年1月30日金曜日

単純作業の向こう側


営業希望で入社したものの希望は叶わず総務、資材課を経て経理に配属された私は、この見るからに単純な作業を黙々とこなしている部署に正直、魅力を感じなかった。
配属後の主な仕事は伝票NOの取得と証憑の貼付け・銀行廻りに振込み処理。 1年経ち2年経ち3年目になっても変わらない。嫌気がさした私は上司を呼び出し、今の仕事に価値を見いだせないことを正直に打ち明けた。すると上司は、黙って私の業務を代りにやって見せてくれたのだ。
結果は、愕然とするものだった。こんな単純な作業なのに2割ほど処理速度が速かったからだ。今思えば、上司は適正な時間を常に把握していて時間が短くなれば次の仕事を与えるつもりだったのだろう。以後、仕事のやり方は一変し、常に業務の手順を並び替え、工夫の限りを尽くした。スピードを追い求めた伝票押印は連打で終には流血。流血しながら収支済印を押す馬鹿がいると社内で話題になりギャラリーが来る始末だった。おかげで空いた時間に少しずつ仕事が増えていった。だが「絶対、営業に行ってやる」と内心思っていた。入社5年目、同期が成果を挙げている中、単純作業をしている自分が悲しかった。

晴れて簿記の上級試験に合格した私は決算業務に加わることが許された。初年度は、まさに足手まとい。時間内に終わらず、上司に多くを手伝ってもらった。1,2年は真似るのが精一杯だった。深夜まで楽しそうに淡々と集計作業をする姿が奇妙に見えたのもこの頃だ。
だが、決算業務3年目になると違った姿に見えてきた。この単純な集計・整合作業は、限られた時間内に「経理原則」を実現するための創意工夫が詰まっていることに気付いたからだ。極限まで削ぎ落とされた段取りと詳細に整理された業務、簿記上級者の間でのみ通用する阿吽の呼吸は、ある種、玉鋼からたたき出す日本刀の作業工程のように思えた。そう、単純作業も磨かれ輝きが増すのだ。そこには先人の英知と誇りがある。

ある日、出来上がった決算資料をまるで「作品」のように愛しむように製本する上司を傍らで見ていた時、上司はボソッと言った。

「少しは仕事が面白くなってきた?」「だけど今、君が見ている景色と俺が見ている景色は全然違うよ。来年はもっと面白くなる」と。

私は転職し、あれから長い年月が経つ。先輩は今、どんな景色を見ているのだろう。



                            日本ジェノス株式会社

                            経理部長  荘司享利

0 件のコメント:

コメントを投稿